新しい片頭痛の予防薬の認可が下りることになりました。朗報です。注射薬なので月に1回の注射を繰り返して予防していくもので、頭の中で炎症を起こす物質「CGRP」を抑える効果があるとのことです。片頭痛の発症メカニズムの主流には「三叉神経血管説」という仮説があります。それは何らかの誘因でセロトニンという化学物質が、三叉神経と頭蓋内の血管の双方に作用して、血管を拡張させ、拡張した血管の周りの神経が痛みとして感じることによることです。三叉神経とは顔を含む頭蓋内の痛みを感じる「感覚神経」です。さらに、セロトニンが炎症性物質である「サブスタンスP」や「CGRP」という化学物質の放出を促進し、それらが三叉神経に痛み刺激を与えるという考え方です。セロトニンを抑える物質が「トリプタン系薬剤」であり、現在片頭痛の屯用時の特効薬として使用されています。
最近の出来事ですが、頭痛薬を軽微と思われる頭痛(頭痛が軽くても内服するという方)で、たくさん鎮痛剤を内服している方に、「冷やしたりして(頭痛はこめかみを冷却すると軽減することが知られています)、痛み止めの回数を減らせませんか」と提案したところ、「私がそうすぐ気楽に薬を飲んでいるような言い方はやめてください」と私が却って怒られてしまいました。確かにその通りです。頭痛は軽くてもつらい人にはつらいものなのです。
実は何人かの患者さんにはお話し済みですが、私自身が非常に頑固な「頭痛もち」なのです。所謂「片頭痛」と「緊張型頭痛」の双方を持っており、予防薬、屯用薬とも欠かせません。
ここで、頭痛に対する保険加入の問題を解決しておきたいと思います。つまり「頭痛もちは保険に入れるか」という問いです。ここでいう頭痛は「機能性頭痛」であり、脳出血や脳腫瘍などの器質的疾患による頭痛は除きます。器質的疾患については、答えはもちろん全く問題なく「YES」です。「日本頭痛学会からの見解」では、「頭痛があるということで保険に加入できないことはない。もちろん『健康上の問題』という大切なペナルティもつかない」という公式な文言が出されております。
以下、日本頭痛学会より
片頭痛の保険加入拒否問題についての見解
平成24年5月1日
日本頭痛学会会員各位
片頭痛の保険加入拒否問題についての見解
日頃日本の頭痛医療に並々ならぬご尽力をいただきまことにありがとうございます。
かねてより片頭痛患者の生命保険加入問題について活動してまいりました。
まず日本の生命保険会社の団体である保険協会に働きかけました。同協会から「片頭痛患者の保険加入については各保険会社に指導できる立場ではない」というお返事をいただきました。
そこで疾病の保険加入について意見を具申しているであろう日本保険医学会に申し入れを行いました。同医学会から平成24年3月15日付けで「片頭痛の罹患を原因として生命保険への加入を拒否される事実はないと認識している」というお返事をいただきました。
これらのコレスポンデンスを通じてわかったことは、以下の各号です。
1. 生命保険会社が全体の方針として片頭痛患者の生命保険加入の制限していることは
なさそうである。
2. 各生命保険会社の方針として加入に制限を加えているということもなさそうである。
3. しかし現場の判断で個々の症例ごとに片頭痛の通院を問題視する事例はある。
4. その場合も片頭痛をとくに問題のある疾患ととらえているのではなく、通院・治療中という
ことを神経質にとらえているようである。
今後の対策としては、片頭痛患者が保険加入に難色を示された場合は、下記の各号の対応をとるのはいかがかと考えました。
1. 日本頭痛学会としては片頭痛を保険加入に支障がない疾患と考えている。
2. 保険団体も片頭痛は加入に問題があるという見解は示されていない。
3. 以上を患者から保険担当者に伝えていただく。
4. それでも加入に問題視されるの場合は「片頭痛で通院加療中であっても健康上の問題は
ない」旨の診断書を発行する。
しばらくはこの方針を会員にお伝えし、成り行きを見守りたいと思います。個々の拒否事例が持ち上がった場合には、生命保険加入問題事例を日本頭痛学会事務局にメールでご報告いたきたく存じます。報告時には集計の都合上別添の「事例報告フォーマット」をご使用いただけると好都合です。これらの事例の情報集約と分析を行ったうえで、あらたな行動を起こしたいと考えております。ご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
【生命保険加入拒否事例報告書】
日本頭痛学会診療向上委員会委員長 山根清美
社団法人日本頭痛協会 代表理事 間中信也
さておき、私が頭痛専門医を目指したのは、自分自身が頭痛もちであり、頭痛のつらさを知っており、頭痛の治療に興味があったからにほかなりません。そこで分かったことは「慢性頭痛は軽減させることが出来ても治らない」ということと「頭痛との付き合い方次第である」ということです。
頭痛は気楽な疾患ではありません。日常生活を阻害する疾患でもあります。しかしながら、そこは何とか気長にうまく付き合っていこうではありませんか。