あれから1年、ブログを更新してこなかったことになる。コロナ禍、学会も殆どオンラインの世界になり、世界中で痛ましい出来事が起こっている。政治の世界に口を挟むつもりはないし、医師という職種のものは、政治に対し意見は述べても手を出すことは厳に慎みたく思う。
さて、前回、樹なつみ先生の「八雲立つ」という漫画に触れたいと述べたが、改めてまた読み返してみた。するとまた新しい発見がある。「鬼滅の刃」は下火になってはいるが、後世に残る名作漫画であろうことは間違いないであろう。
「八雲立つ」。
基本的に私はSF作品であれば出来るだけ読みたいと思っている。また、別で触れることにあると思うが、ゲームでもSFシミュレーション(ストラテジー)ゲームを好む。シミュレーションゲームと言えば、「歴史」が代表かも知れない。そして、そちらの方も私自身は好きである。SF好き=歴史好き、とは昔から言われていたことであり、SF作家が歴史小説を書くことは非常によくある。SF作家「眉村卓」先生→「カルタゴの命運」、「豊田有恒」先生→「邪馬台国を見つけよう」、「タイムスリップ大戦争」などのシリーズ、最近読んでいるものでは、「小川一水」先生の「時砂の王」などにある。「時砂の王」は、構成が少し「八雲立つ」に似る。現代と古代、未来にまたがる物語構成である。もちろん勿体ないので、ネタバレはしない。総刊「17冊」(だったと思う)という小川一水先生の超大作、「天冥の標」も、太陽系前史からはるか未来にかけての壮大な物語だ。
前置きが長くなった。
「八雲立つ」。
私は昔から少女漫画というものに抵抗がなかった。いや、語弊なきようにも「八雲立つ」は少女漫画というカテゴリーに入れるべきではない。今では考えられないであろうが、私の通う小学校の後ろのロッカーには、思い思いの漫画が大量に積んであり、休み時間ともなれば皆外で遊んで、そのあと漫画を読む、というのが日常であった。つまり漫画は持って行っても良かったし、ミニカー、メンコ、独楽などは学校中で流行った。持ち込み自由。授業中、机の上にメンコや仮面ライダーカードなどを積んでいる友人もいた。校庭で凧揚げもできた。自由な時代だった。雪が降ると先生が率先して「雪合戦に行こう!」と声掛けをして、半日雪合戦に興じたこともあった。どんな田舎の小学校だったかって?いえいえ「松戸市」ですよ。「ま・つ・ど」。それは田舎の括りに入っていたかも知れない。でも「昭和」ってそんな時代ではなかったではないでしょうか。そこで、少女漫画と出会うわけですよ。ロッカーで。その中で女子の持ってきた漫画本の中で。「りぼん」や「少フレ」など。「花ゆめ」は学校にはなかったが、中学の同級生(オス)から「一人で少女漫画を買うのが恥ずかしいから」という理不尽極まりない理由で、「パタリロ!」最新刊を買いに行くのに付き合わされ、ブルーソネットに出会い、のめりこんでいった。昔の少年漫画家は「少女漫画家出身者」が多くいた。赤塚不二夫先生「ひみつのアッコちゃん」、横山光輝先生「魔法使いサリー」、新谷かおるも少女漫画出身であったと記憶している(大和和紀、山岸涼子先生のアシをしていたという)。まあ、「砂の薔薇(デザート・ローズ)」、「クレオパトラ.D.C」を読むと、「上手いなあ」と思わせる。「ふたり鷹」、「エリア88」よりも代表作なんじゃないか(?)的な印象ももつ。「ぶっとび!!CPU」なんて、新谷先生らしからぬ(らしい?)作品も発表している。これ、18禁にならないのかなぁ。また、刀を題材にした作品もある「刀神妖緋伝」。これも18禁になりそう。まあこちらもいつか。
ようかく「八雲立つ」。満を持して「八雲立つ」。
現在「八雲立つ 灼」が刊行されているが、こちらは未読。「八雲立つ」本作から。前述したように、現在編、古代編のような交互の構成で成る。登場人物もネタばれない程度で。「七地健生」は、とあることがきっかけで、「布椎闇己」という少年(巫覡)と知り合う。誰にも見られてはいけない神事を見てしまった七地。それを追う闇己。その間わずか十数ページ。目まぐるしい心理の変化、葛藤に読者は容赦なく付いて行かされる。ぐいぐいと引き込まれる。本来7本あったという神剣は、6本が戦時中に行方が知れなくなり、それが何を指し示しているのかわからないまま、残り6本の神剣の行方を捜す。思いがけずに1本、また1本と見つかっていく。それぞれの神剣にストーリーが宿っている。古代では七地は刀鍛冶(正確には鍛冶師:生太刀を打つ)の「ミカチヒコ」の子孫にあたり、闇己はシャーマン(巫覡)の「マナシ」にあたる。時代を超えて共鳴し合う。「八雲立つ」の真の意味、7本の神剣の役割などは、最後の最後まで明かされない。もちろん、七地は七つの刀(生太刀だから血か?、七太刀→七地か?)を意味する符号となっており、現代編と交互に来る古代編を綿密に読んでいけば、少しずつ手がかりが読者に分かってくる、という内容である。その中で、人間関係、親子の葛藤、もちろん恋愛要素もふんだんに含まれる。特に布椎闇己の「美しい」姉の「寧子」の(どんどんヤバくなっていく)関係、(さらに知ってしまうと怖い)二面性。従兄弟の布椎蒿との絶妙、かつ微妙な協力関係。実の父親、邑見眞前の出現と対決。兄弟姉妹とは、真の親子とは、親友とは、因果とは、深く考えさせられる。それぞれの登場人物が話を回す。読者が絶対に期待しないであろう方向へ。これでもかこれでもかと読者を立て引き連れていくその圧倒的なストーリー展開と、それとは裏腹な美しい作画力と美しくてはならない残虐さ。宗像家も出てくる(うちと関係するのかなぁ)。大きな軸となる葛城家の因習と、その家に生まれてきた三姉妹たちの描き方の美しさ、心理描写の丁寧さ。背景の描写。特に長女「葛岐佐那女」の容姿もさることながら、大きな心理的変貌(変容と評すべきか)とその原因。八百万の神の国出雲つまり島根県、東京国分寺市をはじめとする国立市などの街並み、瀬戸内海の島々といった風景描写。まず、作者の「画の上手さ」と「美しさ」に驚嘆する。「綺麗」という一言では決して表現できない、登場人物の男性女性に限らず、その「表情」、「言動」にまで、きめ細かく美しく丁寧な描写。そして何よりも、根幹のしっかりした、太いストーリー、最後まできちんと描き切っている細かく分かれた話の枝と、それらの立派な伏線回収。類を見ない。物語の収束に向かっていくあの疾走感がたまらない。名作。ああ、私の非力な文章力では表しきれない。私、ボキャブラリーが本当に貧困だ。ネタバレなしで書くにはしんどい。ネタあかしをすると膨大な情報量になる。まずは読んでみていただきたい。七地は最後までぶれない。闇己は七地に幾度となく心を救われる。古事記などの日本の古代神話世界の知識を持って読めば、何倍もこの作品のすごさが際立つ、というよりも知って読む方が数倍感動する。友情と呼ぶにはあまりに縁(ゆかり)、いや縁(えにし)が深い。何度読み返しても新しい発見があり、ブラックボックスと言われる古代日本の世界に惹かれる。ちなみに樹なつみ先生の「OZ」という作品も、奔放な母親との話が絡んでくる、というより大きく話に関わってくる。時間的な余裕がないので、「OZ」はまたの機会に。こちらも素晴らしい作品である。うーん、またの機会が増えていってしまう。
樹なつみ先生の作品を見ていると、「そんなことはない」と断言されそうな気がするが、「西村しのぶ」先生の絵を思い描く。こちらもとてもきれいな女性を描く漫画家の先生だ。未完(?)の「サード・ガール」が代表作であろうか(図は新装版であるが、初版本の方が好みだ)。
私の家には万を優に超える漫画を含む本がある。映画のDVD(まじめなやつです)も多量にある。海外ドラマも山のようにある。ほぼ完全読破しているが、未読積読本も少なからずある。図書館を利用しなさいって?もちろん中学高校は週に3冊本を借りては返すという生活だった。大学時代は週に1回映画館で映画鑑賞(こちらは本当に田舎なので、当時の名作2本立てが学生料金で観ることが出来た)。
さて、次回は学術的な内容も書きたいと思うが、紹介したいと思っている本、漫画、ゲーム、映画がある。オタクだ。鈴木ジュリエッタ先生の「からくりオデット」、この作品は完全な少女漫画かと思いきや、かなり考えさせられる。ヒューマノイドはどこまで人間に近づけるのか。これは前出した「OZ」でも重要なテーマになっている。「からくりオデット」では、当然ながら「花とゆめ」の読者層を対象にしているため、ヒューマノイド(作中ではロボットと表記)は恋愛の話である。しかし、恐らく作者が言いたいことの中には、「人造人間は恋愛感情を持つか」、というテーマががっしりと組み込まれている。善悪の判断はできるのか、それは価値観か、友情は?エトセトラエトセトラ。ヒューマノイドのヒューマニズム。人間とヒューマノイドとの関係(表現方法手法内容はかなり異なるが、エクス・マキナという映画も見る価値あり)を描いている。そして、評価の見直され始めた「コッペリオン」(井上智徳先生)という作品について(私は最初から高評価)、当時の社会情勢を踏まえながら(大げさ)、書評をしてみたい。ボニータに連載していた「やじきた学園道中記」の書評も面白い。何しろ作者の市東亮子先生が鋭い。
「八雲立つ」、「OZ」も含めて、異星人との「ファーストコンタクト三部作」のスタニスワフ・レム著の「ソラリス」、「エデン」、「砂漠の惑星」まで、幅広い内容を網羅しようと思う。3部作の中でのおススメは「砂漠の惑星」でしょう。どうやって戦闘すれば勝てるんだ、的な感じがいい。ソラリスは映画化されているが、レム本人は気に入っていない。私は嫌いではないけれども。小説で読むのが良い。これだけの書評、感想。紹介したい本が多すぎる。歴史小説も題材にしたいし。1回では無理かな。無理だな。たぶん、いや、絶対に。