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第43回神経治療学会で思うこと

第43回神経治療学会で思うこと

2025第43回神経治療学会 熊本にて

 

帰路の新幹線という限られた時間の中で書いているため、誤字脱字や文字の統一(特にひらがなとカタカナ、言い回しなど)がなされていないことを予め謝罪致します。

 

遺伝性疾患に対する「核酸医薬」は今回の神経治療学会のトピックスのひとつだ。核酸医薬は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規治療薬である「トフェルセン」で有名になった。今までの遺伝子治療というと、遺伝子を修飾ないしは正常に戻す治療をイメージするが、この療法は「遺伝子のもとになる」DNAあるいは、RNA(これはヒトの場合遺伝情報にはならないが、おもにmRNA:メッセンジャーRNA:タンパク質合成情報を伝える)を修復したりはしない。疾患の原因となるDNAあるいはmRNAを「破壊、切断」した、その発現を抑えることによって治療をする。これにより、異常なたんぱく質は作られなくなり、疾患の発症を抑制するというしくみだ。

遺伝子治療としては画期的であった。作成がだめなら壊してしまえ、作れなくしてしまえ、という破壊的治療は素晴らしい。

遺伝性ALSで元も多くみられる「SOD1」という遺伝子異常に起因すると考えられている。SOD1は何をしているかというと、ざっくり言って「活性酸素からタンパク質の変性を守る」という働きを持つ。もし、SOD1遺伝子に異常があれば、活性酸素を分解(イメージとしては、オキシドールを傷口に塗ると血液と反応して酸素をたくさん泡のように作り、細菌を死滅させてしまう、という感じでしょうか)することが出来なくなり、タンパク質の立体構造を作る時に変性を誘発してしまう。トフェルセンの作用機序は、遺伝子に異常のあるSOD1遺伝子から作られたタンパク質ができないように、その前の過程で遺伝情報を運び出すmRNAを「切断」する。まあ、後に分断されたmRNAはどうなるのかは私も知らない(多分ライソゾームあたりが分解してくれるのかな?)。いずれにしても、異常なmRNAが作られない以上、異常なたんぱく質も作られないため、細胞毒性を持つ凝集体を作ることが抑制されるということのようだ。

SOD1遺伝子は活性酸素産生抑制によって、タンパク質の異常凝集を抑制している。

神経変性疾患は、多くの場合細胞内、あるいは細胞核内に異常な凝集体を形成し、細胞毒性を修する存在と考えられている。

私は過去に私も「分子シャペロン」を用いた治療について書いたことがあった気がする。タンパク質は、その合成の過程で、たんぱく質の立体構造を形成するために「分子シャペロン」と名付けられたリボゾームの重合体によって、正常な形に折りたたまれる。その過程で水になじむ部分が外側に作られ、水になじまない、いわゆる疎水性の部位が内部に折りたたまれるようになっている。疎水性の部分が表面に出てしまうと、細胞内で固まってしまうからだ。もちろん異常な丹生朴室はすぐに分解されねばならない。その働きも分子シャペロンが担っている。これを凝集という。これは、パーキンソン病で見られる「レビー小体」も疎水性部分が表面に出てきてしまった、つまり正常に折りたたまれなかったことによるために起こった凝集体であり、この物質が原因で疾患を起こしているのか、結果的にこのような物質が作られてたまってしまったのかは定かではないが、少なくとも正常構造の細胞にはレビー小体の見られないため、これが作られなくすればよいと考える研究者は多い。タンパク質が正常に折りたたまれるようにするには、異常なたんぱく質を分解する分子シャペロンが作られればよい、というのがシャペロン療法の概要である。この治療はかなりハードルが高い。正常な分子シャペロンをどのように作るのか、その遺伝情報をどのように持ち込むのか、など様々な問題がある。その一方、一度その技法が確立されれば様々な変性疾患に応用が利く。遺伝子疾患であろうがなかろうが、パーキンソン病であろうがALS(筋萎縮性側索硬化症)のブニナ小体であろうが、脊髄小脳片師匠であろうが、様々な変性疾患に応用が利く。ただし、レビー小体やブニナ小体などが疾患に関与しているという前提であるが。

「核酸医薬」に話を戻そう。核酸医薬は遺伝情報を壊す。正確には「変異した」遺伝情報を壊す。遺伝子そのものを壊すわけにはいかないから、その構成物のDNAやmRNAを切って破壊する。ただ、DNAを切れば、遺伝子を構成しているほかの正常なDNAにも影響することが予想されるため、主なターゲットはmRNAになると考えられる。この「核酸医薬」にも問題点はいくつもある。そもそも遺伝子疾患と言っても何百種類もあり、その上に一つ一つの疾患に対し、何種類もの遺伝子の異常がわかっている。それらをすべて拾っていくのは大変であろうし、オーダーメイドな治療戦略が必要であろう。また、遺伝異常の情報がわかっている疾患のみが対象である。それでも「正常な遺伝子を作り直す」よりも「異常な遺伝情報を壊す」ことの方が簡便なのかもしれない。そしてそのうち複数の異なった遺伝子疾患でも応用が利くようになるかもしれない。

「核酸医薬」の今後の発展に期待をしたい。

 

とここまで書いてみたが、間違えている情報があるかもしれない。多分、おおよそがあっていると思うのではあるが、多少の間違いがあればそこは勘弁願いたい。

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